2021年7月4日日曜日

小規模不動産特定共同事業-4

 前回の続き

7.適切な審査

審査を受けるので要件を充足させる必要があります

不動産クラウドファンディングに代表される電子取引では、出資に係る契約成立前書面や契約成立時書面について、投資家はもちろん閲覧できるものの、相対で投資商品のスキームやリスクについて説明を受ける訳ではありません。その中で実務上も重要なのが、「財務状況、事業計画の内容及び資金使途その他電子取引業務の対象とすることの適否の判断に資する事項の適切な審査(以下「審査」と いう。)を実施した上で、その審査結果を自らのホームページに掲載すること等により、投資家の被害を未然に防止することが必要と考えられる。」という箇所で、ガイドラインでは、社内の審査結果をホームページに掲載することが必要とされています。許認可の申請の際も、どのような社内審査をファンドの組成時に行うのかについては確認されますので、準備が必要です。

次に記載されている「また、」以下の審査部門の独立性については一般的な記載と言えるでしょう。もともと金融商品取引業者である場合はコンプライアンスの部署が行うことが多く、不動産特定共同事業者のみの許可(登録)を受ける不動産会社の場合、管理系の部署の方が審査を担うことが傾向としては多いです。

内容的にも形式的にも充足させることが必要です。

(1)人的構成・審査の独立性の確保

基本的には営業部門から独立していることという大原則に沿って審査する部署及び責任者を決めていく必要があります。

会議体で審査する体制が作れる場合は、投資委員会やリスク管理・コンプライアンス委員会のような会議体で審査する体制も可能です。

(2)審査に係る社内規則及び社内マニュアルの整備及び遵守の確認

ファンドの募集にあたっては、事業計画(物件の運用計画といった方が分かりやすいかもしれません)や事業者の財務状況等に関する審査を行い、その結果をホームページ等で公表することが必要なのは既述の通りです。

とはいえ、では実際にどのような審査を行わないといけないかについて、その時その時に適当にやれば良い訳ではなく、ガイドラインの①及び②に記載されている通り、社内規則及び社内マニュアルで審査項目等を事前に定めておく必要があります。許可や登録の申請の際の審査上も非常に重要なので、きちんと準備します。

(3)審査の実施

審査担当者の審査に対する質問の出し方や、財務状況や物件の確認に関する審査のあり方が定められています。

②に定められている通り、審査の際には、確認事項を書面にて送付し、書面にて回答を受領することによってきちんと証跡も残し、その他には③・④で経理状況のヒアリングについてや、物件の確認についても記載されています。

(4)審査項目等

①財務状況の「対応が求められる事項」については、「a.直近の財務諸表において赤字になっていないこと」が電子取引業務(クラウドファンディング)を行う上での審査項目に定められていることに常に留意する必要があります。許認可の申請の際にも事前審査で直近決算の損益計算書は特に注意深く確認されます。直近決算が赤字の状態で申請手続きを行う場合は、進行中の会計期間が黒字で確定してから、申請書が初めて受理されるといったこともありますので、許認可の取得スケジュールは注意深く考えておく必要が出てきます。

また、実際に許可(登録)手続きが完了してサービスを始めていても、その後赤字に転落した場合は実質的に新規のファンドの募集が出来なくなる可能性も出てきますので、会社全体の損益状況は適切に管理するようにしましょう。

bの方は少し分かりにくいですが、
例えば1号事業者の資本金は1億円以上である必要がありますが、その事業者の資本金が1億円の場合、「純資産が資本金又は出資の額の100分の90に相当する額に満たない」という状態は、繰越欠損金などの原因で純資産額が9,000万円未満になっていなければ大丈夫ということです。こちらについてはあまり問題になる会社は少ないですが、金額の大きな減損などで純資産が大きく毀損するようなことがある場合には留意する必要があります。


①財務状況の「対応が期待される事項」については、 損益に関する変動要因や監査の状況の把握が期待される旨が記載されています。

また、監査の状況については、小規模不動産特定共同事業者は監査法人からの監査を受けることが必須条件ではないため、それに代替する確認方法について(注)にて記載されています。


②の事業計画についてはどうしても記載するべき若しくは開示するべき情報の幅が広い関係で留意すべき事項が多いので、都度ファンド・案件毎に注意して要記載事項を整理する必要があります。


③の資金使途についても②の事業計画と同様に記載するべき若しくは開示するべき情報の幅が広い関係で留意すべき事項が多いので、都度ファンド・案件毎に注意して要記載事項を整理する必要があります。


④のその他の審査事項としては、イ-b.の「過去の投資家被害」が特に全ての事業者に係る大きな留意点で、ファンドの償還期限を過ぎても、物件が売却できなかったりして元本が償還できなくなった場合、次回以降の電子取引による募集が出来なくなるため、元本の償還は継続的に行えるように案件を組成する際には物件の選定やスキームの組み方を良く考えて行うようにしましょう。

(5)審査結果等の公表

審査結果等の公表はシステムの要件としても重要で、契約成立前書面の記載事項として審査項目とそれに対する審査結果のページを用意し、ホームぺージ等で閲覧できる状態におくことが求められています。具体的な対応としては、クラウドファンディングのサービスページにおいて、各ファンドの募集時に投資家登録を済ませた利用者が閲覧できるようにしている事が多いです。

(6)社内記録の作成、保存

審査結果に関する記録は10年間の保管が義務付けられていますので、文書管理規程などを整備し、誤って破棄などすることのないようにしましょう。