不動産クラウドファンディングの法的根拠です。
法律用語のオンパレードですが、どのような事業が該当するのかを明確にさせています。
第1章 小規模不動産特定共同事業とは
1-1.不動産特定共同事業法について
「不動産特定共同事業」(以下、「不特事業」といいます。)は、不動産証券化手法の一手法です。不動産証券化手法は、不動産投資の規模を小口化し、多種多様な投資家のニーズに応じた投資商品の提供を行うことで、不動産への新たな投資機会を創出することから、不動産市場への資金流入による市場の活性化を促進するとされています。
不動産証券化手法を利用した不動産投資を行うのは、一般には、金融機関や証券会社等の機関投資家が多いですが、個人を対象とした商品として不動産小口化商品があります。
不動産小口化商品は、昭和62年頃から供給が始まったと言われていますが、バブル経済崩壊後、不動産小口化商品を提供していた業者が倒産したこと等により、投資家に被害が及ぶという事件が発生しました。そこで、投資家保護を目的として、平成7年に「不動産特定共同事業法」(以下、「不特法」といいます。)が施行されました。
1-2.小規模不動産特定共同事業の創設の背景
平成7年の不特法施行以降、不特法に基づき不動産証券化事業を行う者(不動産特定共同事業者。以下、「不特事業者」といいます。)について、資本金や宅地建物取引業の免許等の一定の要件を設け、許可制としていました。
しかしながら、許可要件のハードルが高かったため、空き家・空き店舗等の再生をはじめとする小規模な事業を行うために不特事業者となることは広がっていない状況でした。
こうした背景を踏まえ、平成29年12月1日に施行された「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律(平成29年法律第46号)」において、経済的リターンの追求だけでなく、地域活性化等への貢献をも目指す「志ある資金」等を活用して、空き家・空き店舗を再生する取組等を推進するため、地域の不動産業者等が不特事業を活用できるように、参入要件が緩和された「小規模不動産特定共同事業」(以下、「小規模不特事業」といいます。)が創設されました。
1-3.不動産特定共同事業及び小規模不動産特定共同事業の概要
(1)概要
「不特事業」及び「小規模不特事業」とは、事業参加者(以下、「投資家」といいます。)からの出資をもとに、不動産(宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第2条第1号に掲げる宅地又は建物をいい、現物不動産が対象となります。信託受益権化された不動産と区別するため、以下、「現物不動産」といいます。)の取引売買、交換又は賃貸借を行い、それらの不動産取引から生じる収益又は利益を投資家に分配する事業のことです。
不特事業及び小規模不特事業には、以下の種類があります。
(小規模)不特事業に該当する事業には、例えば下記のようなものがあります。
①空き店舗をリノベーションした後に賃貸事業を営む場合
投資家からの出資をもとに空き店舗の所有者から不動産を取得し、リノベーション工事を実施後、テナント(宿泊事業者や店舗経営者等)に賃貸し、賃貸事業から得られる賃料収益をもとに投資家へ分配を行う事業。
②賃貸住宅のリニューアル工事を行った後に賃貸事業を営む場合
投資家からの出資をもとに賃貸住宅を賃借し、リニューアル工事を実施後、入居者に対して転貸し、転貸により得られる賃貸収入から賃借により所有者へ支払う賃料等の費用を控除し、投資家へ分配を行う事業。
知り合い等の身近な方から出資を募って事業を行う場合にも不特事業に該当し、不特法に基づく許可又は登録を受ける必要があります。
(2小規模第1号事業
(ア)小規模第1号事業の概要
「小規模第1号事業」とは、投資家と不特契約を締結し、当該不特契約に基づき営まれる現物不動産の取引から生ずる収益又は利益を分配する事業です。
小規模第1号事業を行うためには、小規模第1号事業の登録を受けた者(以下、「小規模第1号事業者」といいます。)である必要があります。また、投資家の募集や投資家との不特契約の締結は、小規模第1号事業者自らが行うことが可能ですが、不特契約の締結について代理・媒介を他者へ委託することもできます。他者へ委託する場合には、第2号事業の許可を受けた者(以下、「第2号事業者」といいます。)へ委託することが必要となります。
不特法では、投資家は「特例投資家(不特法第2条第13項に規定する者)」と「一般投資家(特例投資家以外の者)」の2種類に区別されており、投資家の種類によって一の投資家から調達できる金額は異なります。
一般投資家は投資のプロではないことが多いため、投資家保護の観点から、一の投資家が各小規模第1号事業者に対して出資できる合計額は「100万円以下」と定められています(不動産特定共同業法施行令(以下、「施行令」といいます。)第2条第1項第1号)。
一方、特例投資家はプロの投資家であることが考慮され、一の投資家が各小規模第1号事業に対して出資できる合計額は「1億円以下」と定められています(施行令第2条第1項第1号)。
また、小規模第1号事業者が調達できる出資総額は「1億円以下」と定められています(施行令第2条第1項第2号)。
(イ)小規模第1号事業者
小規模第1号事業者になるためには、不特法に基づく小規模第1号事業の登録を受ける必要があります。登録要件は、以下のとおりです。
小規模第1号事業者は、不動産賃貸業や不動産売買業等の他業と小規模第1号事業をオンバランスで行う場合が多くなります。そのため、小規模第1号事業者の他業に係る口座と、小規模不特事業で使用する口座を分ける必要があります。なお、複数の小規模不特事業を行う場合には、小規模不特事業ごとに使用する口座を分ける必要があります。
(3)小規模特例事業
(ア)小規模特例事業の概要
「小規模特例事業」とは、特別目的会社SPCを活用した倒産隔離型スキームです。小規模特例事業の特徴は、事業者が行っている他の事業も含めて同一の会社で行う小規模第1号事業とは異なり、別の会社であるSPCを活用して行うため、事業者本体の経営と分離されている点です。そのため、SPCを活用して行う事業は、事業者本体のバランスシートには計上されない取引オフバランスになるため、事業者本体の有利子負債の拡大を避けることが出来るという利点があります。
小規模特例事業者は、不特契約に基づき行われる現物不動産の取引に係る業務を小不特契約に基づき行われる現物不動産の取引に係る業務を小規模第2号事業の登録を受けた者(以下、「小規模第2号事業者」といいます。)へ委託し、不特契約の締結の代理・媒介に係る業務を第4号事業の許可を受けた者を(以下(、「第4号事業者」といいます。)へ委託することが必要となります。
投資家は、「特例投資家」と「一般投資家(特例投資家以外の者)」の2種類に区別され、投資家の種類によって一の投資家から調達できる金額は、小規模第1号事業の場合と異なります。一般投資家の場合には、一の投資家が各小規模特例事業者に対して出資できる合計額は「100万円以下」と定められています(施行令第2条第2項第1号)。一方、特例投資家の場合には、一の投資家が各小規模特例事業に対して出資できる合計額は「1億円以下」と定められています(施行令第2条第2項第1号)。なお、出資上限額の考え方については、国土交通省「不動産特定共同事業の監督に当たっての留意事項について」第4-6をご参照ください。
また、小規模第2号事業者が、複数の小規模特例事業者から業務を受託している場合には、受託している全ての小規模特例事業者に係る出資の合計額は「10億円以下」と定められています(施行令第2条第2項第2号)。
なお、工事費用が1億円を超える宅地の造成、新築、増築、改築、移転、修繕又は模様替を行う小規模特例事業の場合には、一般投資家は投資することができません(不特法第2条第8項第4号。
(イ)小規模特例事業者
不特法の制定時、「倒産隔離」や「SPC」の概念は日本の不動産投資市場で一般的ではありませんでした。その後、市場の発展を受けて平成25年に不特法が改正され、不動産の取得・保有・収益分配等の不特事業に係る業務のみを行うSPCを設立し、不動産の運用に係る業務を第3号事業の許可を受けた者(以下、「第3号事業者」といいます。)に、不特契約の締結の代理又は媒介に係る業務を第4号事業者に委託をする場合、
不動産を所有する「器」に過ぎない事業者であるSPCは、「許可」を取る必要はなく「届出」で事業を行うことができるようになりました。
平成29年の不特法改正により、特例事業者と同様に不動産の取得・保有・収益分配等の不特事業に係る業務のみ行うSPCを設立し、不動産の運用に係る業務を小規模第2号事業者に委託し、小規模不特契約の締結の代理又は媒介に係る業務を第4号事業者に委託する事業者を「小規模特例事業者」とする新たな制度が創設されました。
小規模特例事業者も特例事業者と同様に届出で事業を行うことができます。
(ウ)小規模第2号事業者
小規模第2号事業者は、小規模特例事業者から委託を受け、現物不動産の不動産取引に係る業務を行います。
小規模第2号事業者となるためには、不特法に基づく小規模第2号事業の登録を受ける必要があります。小規模第2号事業の登録要件は、小規模第1号事業の要件と同様です。
(エ)第4号事業者
小規模第1号事業では、小規模第1号事業者が出資を自ら募ることもできますし、第2号事業者である他者に委託することもできますが、小規模特例事業では、小規模特例事業者が自ら出資を募ることはできず、小規模不特契約の締結の代理又は媒介業務を第4号事業者に委託することとなります。
また、特例事業小規模特例事業も含みます。)に係る不特契約に基づく権利は、金融商品取引法昭和23年法律第25号。以下、「金商法」といいます。)における「みなし有価証券」に該当するため、第4号事業の許可を受けるための要件の一つとして、第二種金融商品取引業の登録を受けていることが必要です。